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イギリスの国民投票によるEU離脱、Brexitについて考える
すでにご存知かと思いますが、英国の国民投票で予想外の展開が起き、EUからの離脱支持が過半数をとりました。
直前の世論調査ではEU残留支持が2%ほどリードしていました。また実際の投票ではリスクを回避し現状維持を望む傾向が強まるというデータがあります。そのためEU残留がほぼ決定的だろうと見られていました。
ところが蓋をあけてみると、下の図のようにイングランドの地方とウェールズの離脱支持が根強く、離脱支持が51.8%(17,410,742票)、 残留支持が48.2%(16,141,241票)と僅差で離脱派が勝利するという結果となりました。
黄色の地域が残留支持が50%以上
青色の地域が離脱支持50%以上
スコットランド EU残留支持 62%
北アイルランド EU残留支持 55.8%
ウェールズ EU残留支持 47.5%
イングランド EU残留支持46.6%
Map from Wikimedia Commons (click for more info)
すると、結果と同時に世界中で、ポンド安、円高、大幅な株安と混乱が広がりました。
イギリスは今後どうなってしまうのだろうか…
日系企業は他のヨーロッパの国に移転しないといけないのか…
報道が増すにつれ、将来に対し強い不安を持つ人々も増えていきました。新聞・テレビ・ラジオやソーシャルメデイアでは「間違った結果」だと絶望的なコメントが次々に発信されました。残念なことに必要以上に暗いムードが生まれてしまいました。
日本人会計士の友人は、何も決まらないうちに不必要な不安がだけが伝染している状況で、皆さんにはもう少し落ち着いてほしいと話していました。
イギリスの向かう方向が見えないうちに、感情的になりイギリスやEUとのビジネスを心配するなど、強い不安にかられている人もいるようです。
そのため、特に日本やイギリスにお住まいの方には、この結果によって絶望的になったり、過度に不安になるのではなく、しばらく前向きに状況を見守ってほしいとお伝えしたいと考えました。
そこで本日のブログでは当初の予定を変更し、私(Japan World Link 代表・宮地アンガス)がロンドンで感じたことを書かせていただきました。
*私は政治研究家ではありませんので、一個人の感想として参考にしていただければと思います。
なぜ残留にならなかったのか?
普通と違う切り口ですが、個人的な印象としてEU残留の票が伸びなかった原因を考えてみました。
「夢」を訴えることができなかった
EUに残ることで、明るい未来が待っていますよ、という強いメッセージが聞こえなかった。
残留派は、「EUから離脱をしたらこれだけ困りますよ!」、「これだけ損しますよ!」とデータを使った「恐怖メッセージ」に力を入れていました。
それに対し離脱派は、EUを離脱すると、国民が手に入れられる「夢」を熱く訴え続けたと感じました。イングランドやウェールズの地方の人たちは、将来への夢と希望を求めていたのでしょう。
残留派が、EUに残ったらこんなに素晴らしい将来が待っていますよ!というメッセージを発していたら…
人の性として、恐怖より夢や希望という動機の方が共感を得やすいと思うのは、私だけでしょうか?
EU からの説明不足
EU不信を取り除くのは誰の仕事?
EUという共同体は、モノやヒト、カネの自由な行き来だけでなく、参加国は主権の一部をEUに譲っています。つまり分野によっては、EUが決めたことをイギリスなどの参加国が従わないといけないのです。
地方のイギリス人がEUに対し不信感を抱いていたことは、EU側も以前から十分わかっていたはずです。
地方に住む人たちが、自分たちはEUから無視され、閉ざされた部屋の中でイギリスに不利になる話ばかりがされているとインタビューに答えていました。また漁場を他のEU国に割り振られたため壊滅状態になった地方の漁港の様子がドキュメンタリーとして放送されていました。そして、英国の首相より給料の高いEU職員が10,000人も存在するなどお金の使い道についての疑問もメディアで取り上げられていました。
厳しい意見かもしれませんが、EUには不満の多い地域に出向き、説明をしたり住民の声に耳を傾ける必要があったのではないでしょうか。
EUについて説明するのは、自分たちではなくイギリスの政治家やイギリスが送り込んでいるEU議員 (離脱派が多い) の責任であるというのがEUの姿勢だとすれば少し違和感を感じます。
日本の地方で日本全体を揺るがしかねない大きな問題があったら、政府の担当者は都道府県知事や自治体職員、その地方選出議員に丸投げするでしょうか。おそらく担当省庁や大臣、場合によっては総理大臣が出かけて行き、説明責任を果たそうとすると思います。沖縄の基地問題や震災復興がわかりやすい例だと思います。
離脱派の妨害などで不可能だった可能性もあります。しかし当事者であるEU担当者が、イギリスの地方を周り住民に理解を示していれば、EUに好感を持ち、残留に回った人も増えたのではないでしょうか?
国民投票の結果について、もしEUのトップが「自分たちの責任ではないし関係なかったことだ」と感じているとしたら、主権の一部を任せている住民にしたら納得いかないでしょう。
今後どうなる?
悲観的な報道
イギリスの国民投票の結果については、悲観的で暗いニュースばかりが報道されています。
EUの考えとしては、EU離脱の動きが他の国に広がるのを防ぎたいと思っているようです。日本やアメリカも自国が混乱するのを防ぎたいと思っています。そのため、否定的な報道が続いているのも理解できます。さらに今後、EU圏内の総選挙やアメリカの大統領選挙に利用され、しばらくネガティブな報道が続く可能性があると思います。
しかし、イギリスの未来は、まだ決まっていません。
EUからの離脱も時間がかかります。
悲観的な報道に流されずに、イギリスの政治家が「いまから」作っていくイギリスの未来をしばらく冷静に見守ってみてはいかがでしょうか。
今一番気になること
離脱を支持したイングランドの地方(上の地図の青いエリア)の人たちを「無知だ」「教養がない」「労働者の不満だ」などとメディアが平然と報道したり、個人がソーシャルメディアで軽々しく発言しているのが毎日目や耳に入ってきます。このように離脱支持者をひとまとめにしてしまうのは、非常に危険なことだと思います。
実際、私の購読していたロンドンの金融雑誌は離脱支持で、昔の同僚にも30代の離脱支持者がいました。
残留派のキャンペーンは、耳にタコができるくらい離脱にはリスクが伴うことを伝えていました。それをどの程度信じるかという温度差があったとしても、離脱が全く痛みを伴わない選択であると思っていた人は、ほとんどゼロだったのではないでしょうか。
今回の国民投票の結果によって見えるのは、無知な人が多いことではなく、痛みを伴ってでも今の生活を変えたいと思っている人たちがどれほど多かったかということです。EU離脱に票を入れた地域の人たちを批判するのではなく、その人たちに目を向け、問題の原因を探っていくことが最も重要なことなのです。
ロンドンに住む日本人の知人が「やる気はなさすぎるけれど、イギリス人であるというだけのプライドは高すぎる低学歴の労働階級の方々がイングランド北部に多いですね」というコメントをfacebookに残していました。また同じようにイギリス北部の人たちを「フーリガン」と呼んでいる日本人がいました。さらにはNHKでさえEU離脱派を「トランプ支持者」と一緒にしたような報道をしていました。このように、離脱を支持した人に否定的なレッテルは貼ることは、何の解決にもなりません。
イギリスの国民の半数を占める離脱支持者にレッテルを貼り、さらに分裂を助長するような無責任な発言をみると、同じ日本人として見ていて非常に恥ずかしく感じます。
私の期待
EU離脱によって生まれるチャンス
前述しましたようにイギリスの未来は、政治家が「これから」決めていくものです。
そこで最後に、イギリスの「これから」に対する私の期待を述べたいと思います。
イギリスに住んだことがある方の中には、イギリスの政治が、クリーンで透明性が高く民主的だという印象を持たれた方も多いのではないでしょうか。立場が異なる政治家でも自分の国の首を絞めるような政治判断をする国でなないと思いますし、したたかにバランスのとれた賢い選択を狙うのが上手な国ではないかと思います。
そのため、悲観的な報道がされている間も、水面下で様々な交渉が進められていると信じて間違いないと思います。
ほとぼりが冷めたときに、歩み寄りが表面化し 、
「イギリスとEUはどのような関係が築けるのか?」
「これまで制限されていたEU圏外の国とイギリスはどのような関係が築けるのか?」
といった疑問に対する答えが見え始め、ポジティブな方向に動き出すのではないかと私は期待しています。
最初の疑問であるイギリスとEUの関係については、双方にとってメリットがある合意にたどりつくのではないかと思います。
理由の一つとして、EU残留したいということでスコットランドが再度国民投票を要求する可能性の高まりがあげられます。スコットランドを独立させてしまうと他の国でも同様に地域の分裂が起こるのではないかという懸念があるからです。
EU残留派が多いスコットランドの独立を阻止するためには、スコットランドも喜ぶ条件をイギリスと結ぶ必要があります。そのためイギリスに対して寛容になるのではないかと思います。
二つ目ですが、イギリスは今後、EU圏外の国と関係を強化する必要があります。下の理由から私はイギリスと日本の関係が強まる可能性があるのではと期待しています。そのために是非日英の政治家には積極的に動いて欲しいと思います。
イギリスから見た日本とは?
イギリスのGDPは世界5位ですが、GDPランキング1,2,3,7位の国はEU圏外の国です。1位のアメリカは大統領選挙で不安定なところもあり、今あまり身動き取れなさそうです。2位の中国はイギリス国内であまり信用されていないという問題があります。そこで3位の日本と、今後伸びそうな7位インドに目が向けられる可能性があると思っています。特に日本は勤勉で礼儀正しく、質の高い商品やサービスを提供するということで好感をもたれているので、世界のパートナーとして日本ともっと取引したいと思っている人も多いのではないかと思います。
また、日本人がイギリスで働くために必要な労働ビザの条件も緩和される可能性があります。
これまではEUからの移民が多かったため、それ以外の国の受け入れを厳しくする必要がありました。EUからの移民が制限されると、これまで厳しかった日本人に対する労働ビザも変わる可能性があります。日本人はオーバースティ率や犯罪事件率はとても低く、イギリスの文化も尊重します。そのため日本からもどんどんイギリス政府に働きかけ、日本人がイギリスで働くことを今より容易にしてほしいと期待しています。
日本から見たイギリスとは?
イギリスと関係を強めるメリットは日本にもあります。アメリカ次期大統領候補は二人ともTPP反対の立場を示しているため、アメリカが交渉のテーブルから抜けTPPがなくなる可能性があります。また、日本とEUのEPA交渉も長引いていると報道されています。イギリスは日本の農家とバッティングするような農作物の生産高が高くなく、ドイツ車を大量に輸入しているため車や機械の輸入にも抵抗がないと思います。さらに日本と英国は日本とEUの交渉で同じテーブルについた経験があるようですし、日英の間でEPA交渉をした場合、現在日本が進めている他の交渉より抵抗が少ないでしょう。そのためパートナーとしてお互いにプラスになる側面が強い協定が結べるのではないかと期待しています。
再度繰り返しとなりますが、今回の国民投票の結果を絶望的だと悲観的に受け止めるのではなく、この状況が日英関係の強化と日本のビジネスにとってチャンスになりうると考え、日英の関係強化に向かい建設的な議論を進めてほしいと思っております。
以上、今回の国民投票についての私、宮地の意見と今後への期待を述べさせていただきました。
感想などございましたら、是非お気軽にお知らせください。
ブログ作成者:宮地アンガス
ジャパン・ワールド・リンク代表。栃木県の田舎町育ち。現在英国・ロンドンを拠点として「海外と日本を繋ぐ!」をモットーに、日本・北関東のインバウンド及び海外進出を支援中。
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